随筆・ムンクの「赤い蔦」

2018年10月から東京都美術館ムンク大回顧展が始まった。芸術の秋なのでフェルメールなど他にも美術展が目白押しだったが、かの「叫び」のポスターに引かれることにした。
「赤い蔦」は、壁が赤い蔦で覆われた二階建ての家を背景に、青ざめた顔色の人物を直前に配した1枚だ。赤い蔦のからまる建物と人物との関係は分からない。建物の窓が開いているので、あるいは中に人がいたことを思わせる。
建物と人物の関係をあえて無視して、絵を上下に切ってしまい、2枚の絵として見ることを想像してみた。上は建物、下は人だけになるが、それはそれで成り立つような気がしてくる。この場合、上はやはり「赤い蔦」の題が使えるが、下は「青い顔」とかになるのだろうか。
それにしても、この人物は何とも不思議な表情をしている。笑ったり怒ったりしているわけではないが無表情ということではない。不満そうな顔つきとは思えないが満足そうでもない。もしかしたら見る人や見るときなどによって変わるのかもしれない。
話を元の絵にもどすと、けっきょく平凡な人物に平凡な風景を組み合わせたら、全体として非凡な絵に仕上がったようでもある。こういうのは画風とかとは違うのだろう。現にムンクの他の絵にそういう傾向があるようには見えない。「赤い蔦」はそんなことを考えさせる興味尽きない一枚だった。